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AWSを使っていれば安心?「責任共有モデル」を理解せず放置する中小企業のリスク

執筆者情報
中村 圭介
株式会社カジヤ/代表取締役 男性向けファッション通販サイト運営の会社を経験し、現職に至る。デザインや開発から、ECやメディアのコンサルティングまでを一貫して行う。お付き合いのあるお客様の事業を成功に導けるように、再現性のある成長支援ができる会社を目指す。

【AIによる要約】
– AWSが守るのは「クラウドそのもの」で、OS・ミドルウェア・アプリケーションの保守とセキュリティは利用企業の責任のまま残ります。
– 「AWSだから安心」のまま放置すると、脆弱性放置・障害対応の遅れ・説明責任の空白が静かに積み上がります。
– まず自社の責任範囲を棚卸しし、社内で対応できない部分は保守代行や監視体制を外注するかを判断しましょう。

はじめに:「AWSに移したから安心」は危険な思い込み

「サーバーをAWSに移したので、もうサーバーの心配はいらない」——移行の打ち合わせで、このような安心感を持たれる担当者は少なくありません。

しかし実際に障害やトラブルが起きると、現場に出てくるのは次のような混乱です。

  • 「OSのアップデートは誰がやるんですか?」→ 雑務として社内に残っていた
  • 「データベースの不具合でサイトが動かない」→ AWSに問い合わせたら「利用側の設定の確認を」と返ってきた
  • 「深夜に障害が起きたけど、誰も気づかなかった」

これらは珍しいことではありません。当社カジヤは業界歴10年以上、300社以上の企業サイト・Webシステムの支援に携わってきましたが、クラウド移行後の「責任の境界の誤解」によるトラブルは、現場で繰り返し目にしてきたパターンのひとつです。

本記事では、AWSの「責任共有モデル」の基本から、誤解したまま放置した場合に何が起きるか、そして中小企業が取るべき現実的な判断基準までを解説します。

AWSと利用企業の間で責任範囲が分かれるイメージ

責任共有モデルとは?「どこからどこまでAWSの責任か」

AWSの公式ドキュメントが示す「責任共有モデル」は、一言でいえば「AWSが守るのは“クラウドそのもの”であり、クラウドの上に載せたものは利用者の責任」という仕分けです。

出典:AWS公式:責任共有モデル

イメージしやすいように、ECサイトを動かしている典型的な構成で整理します。

責任
ハードウェア・物理インフラ データセンター、電源、サーバー機器 AWS
仮想化インフラ EC2の基盤、物理ネットワーク AWS
OS Linux、Windows Server の更新・設定 利用企業
ミドルウェア データベース、Webサーバー(Nginx/Apache等) 利用企業
アプリケーション EC-CUBEやWordPress、独自開発システム 利用企業
データ・アクセス管理 顧客データの保護、権限設定、鍵管理 利用企業

太字の部分が、AWS移行後も自社の責任としてそのまま残る領域です。

EC2という仮想サーバーを使っている場合、「サーバーはAWSのものになった」と考えてしまいがちですが、その中で動くOSとソフトウェアは、従来の自社サーバーと同じく自社で保守し続ける必要があります。

重要な注意:マネージドサービスでも全部が「お任せ」ではない

RDSのようなマネージドデータベースやS3のようなストレージサービスを使えば、責任範囲はAWS側に広がります。これは大きな助けになります。

ただし、その場合でも「データそのものの保護」と「それにアクセスできる人の管理」は、最後まで利用企業の責任として残ります。アクセスキーの管理が甘く、外部にデータを吸い出される事故は、どれだけマネージドな構成でも起こり得るのです。

責任の境界線:AWSが担う層と自社の責任の層

「AWSだから安心」のまま放置すると、何が起きるか

責任範囲の誤解そのものは、すぐに事故にはなりません。事故になるのは、その誤解のまま何もしなかった時間が積み上がったときです。

リスク1:OS・ミドルウェアの脆弱性が、誰にも気づかれず放置される

EC2上のOSやWebサーバーには、通常のサーバーと同じくセキュリティパッチが配られ続けます。しかし「AWSが更新してくれる」と思い込んでいると、そのパッチを誰も適用しません

自社運営のEC事業でも同じ構図を日々目にしますが、脆弱性は公開から攻撃までの時間が極めて短くなっています。パッチが出ても適用しなければ、状態としては「何もしていないサーバー」と同じです。

IPA(情報処理推進機構)も、脆弱性対策は「情報を入手し、影響を確認し、対策を講じる」一連のサイクルを組織側で回すことの重要性を公表しています。

出典:IPA:脆弱性対策情報の収集・対応

放置した結果どうなるか。当社が実際に立ち会った復旧事例でも、改ざんや乗っ取りの入口は「更新されていないソフトウェア」だったというケースが目立ちます。

リスク2:障害が起きたとき「どちらの責任か」で時間が溶ける

深夜にECサイトが止まった。カートも決済も動かない。

AWSに問い合わせると、「AWS側の基盤に異常は見られません。ご利用環境側の設定・アプリケーションを確認ください」と返ってくる。一方、社内には切り分けられる技術者がいない。

結果として「どちらの問題か」の切り分けだけで数時間が溶け、その間ずっと売上ゼロが続く。自社でもEC事業を運営しているからこそ分かりますが、システム障害の実損失は「復旧までの時間 × その時間の売上」で決まります。切り分けの遅れは、そのまま損失の増大です。

さらに困るのは、後から「なぜその構成・その運用にしていたのか」を説明できない状況です。OSの更新記録もない、監視もない、担当者は退職済み。障害対応の前に、説明責任の空白が露呈します。

リスク3:保守担当の不在が、移行後に「判明」する

制作会社や開発会社がAWSへの移行を伴って納品した場合、よくあるのは「運用フェーズ以降の保守対象にクラウド側のOS・ミドルウェア更新が含まれていない」パターンです。

契約書に目を通す限り、AWSの稼働監視は入っている。しかしOSのパッチ適用は対象外、データベースのバックアップ検証も対象外。いざ「更新してください」と頼むと「対応可能ですが、別途お見積りになります」となる。

これは開発側の悪意ではありません。「AWSで動く」ことと「AWSの上を保守する」ことは別の仕事であり、後者を誰が担うかを発注側が決めていなかったために起きる、典型的な空白です。

中小企業の判断基準:どこを社内で守り、どこを任せるか

ここまで読むと「全部外注したらいいのでは」という発想に行き着きますが、現実には範囲を決めて、責任をはっきりさせることが重要です。当社の経験から、判断の目安を言い切ります。

判断基準:「技術担当が常駐しているか」で分ける

  • 技術担当者が社内にいない企業(多くの中小企業)
    → OS・ミドルウェア・アプリの更新、セキュリティ監視、障害対応は外部に任せるべき。社内では「任せたことを確認する」役割に専念する
  • 常勤の技術者がいる企業
    → 更新作業は社内で回せます。ただし、24時間の監視・深夜対応・切り戻しまで社内で賄えるかは別問題。ここだけ外注するハイブリッドが現実的

依頼前に必ず確認すべき4項目

保守代行や監視サービスを検討する際は、次を確認してください。

確認項目 なぜ重要か
OS・ミドルウェアの更新が含まれるか 「AWS監視込み」と書かれていても含まれないことが多い
障害の切り分けはどこまでやってくれるか 「AWS側の問題か、利用側か」の切り分けまで含まれるか
深夜・休日の対応時間は 障害は深夜・休日に起きやすい
バックアップからの復旧まで含むか 「取る」だけでなく「戻せるか」まで検証する体制があるか

特に最後の1行は、当社が過去記事でも繰り返し指摘している落とし穴です。バックアップは「取っているつもり」が一番危険で、復元テストをしたことがなければ、それは保険になっていません。

落とし穴チェックリスト:自社を確認しよう

以下の質問に「はい」と答えられない項目があれば、それは責任の空白です。

  • AWS上のサーバーのOSバージョンが確認できる
  • ミドルウェア(データベース・Webサーバー)のパッチ適用担当者が決まっている
  • アプリケーション(EC-CUBE・WordPress等)の更新を定期的に実施している
  • 顧客データへのアクセス権限と、退職者アカウントを適宜削除している
  • クラウドのアクセスキーが、共有パスワードとして保存されていない
  • 障害が起きたとき、相談できる窓口がある
  • バックアップからの復元を、実際にテストしたことがある

1つでも空欄が残るなら、まず現状の「誰が何をやっているか」を書き出すことから始めてください。それが責任共有モデルを自分ごととして理解する第一歩です。

おわりに:安心材料ではなく、仕分け図として使う

AWSは優れたインフラです。しかし、それは「何もしなくていい」を意味しません。

責任共有モデルは、AWSが自分たちの責任範囲を明示してくれている誠実なドキュメントです。読み方は、安心材料としてではなく、「ここから下は私たちの責任」という仕分け図としてです。

仕分け図を眺めたうえで、自社の技術力で守れる部分と、外部の専門家に任せるべき部分を分ける。その判断ができた企業は、クラウド移行を「安心の終わり」ではなく「安全運用の始まり」にできます。

当社カジヤは、300社以上のWebシステム支援の経験をもとに、OS・ミドルウェア・アプリケーションの保守管理までを一貫して支援しています。「AWSに移したけれど、この先の保守が心配」という方は、Webサイト保守管理サービスをご覧ください。契約前に、現在の責任範囲の整理からお手伝いします。


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